IRデータバンク第37回目のインタビューは、クリエイターエージェンシー事業で急激に成長している株式会社クリーク・アンド・リバー社の井川幸広社長の登場です。【2008年2月27日実施】
――クリエイターのエージェンシー事業を始められたきっかけを教えてくだい。
私は起業前、映像のディレクターとして活動していました。
アフリカの貧困に苦しんでいる村落を取材した時のことです。
私には「メディアを通じて社会の歪みを伝え世の中を変えて行きたい」といった思いがありました。そのような強い気持ちがなければ、危険な地域での取材をすることはできません。
ところが貧困に苦しんでいる人を眼前にし、その現状を知るにつれ、メディアに問うよりも、そこに水路をつくり、作物を育てるノウハウを提供し、困っている人に対して直接手を差し伸べるべきではないかと思うようになりました。
帰国してからも、ドキュメンタリストとして活動を続けるより、直接困っている人たちの支援をしたいという気持ちは更に強くなりました。そして、身近にいるフリーランスのクリエイターを支援することこそが、やるべき事業であると思うようになりました。
クリエイティブの面では優秀であるにも関わらず、クライアントとの交渉が不得手な方等、実力があっても個人ではなかなか活躍できない例を多数見てきました。そういう人達がクリエイティブの企画や制作に専念でき、活躍できる場を提供する事業を行なおうと思ったのが起業のきっかけです。
――会社を創業する場合に、人脈が重要だと良く聞きますが、社長の場合はいかがでしたか。
会社の創業時は私と副社長ともう1人の、3人でスタートしたのですが、当時、私が持っていた人脈というのはディレクターとして活動した際にお付き合いいただいた方だけでした。
しかし、人脈というのは利用しようとして増やせるものではなく、目的を持ちながらどんどん発展し、そこから紹介の輪が広がっていくものです。そして、その紹介の輪で培った人脈は、ただ知っているとか名刺交換だけというようなものではなく、「コイツのためだったら一肌脱ごう」「オレが保証しよう」等のレベルで初めて生きてきます。
事業に真剣に取り組んでいれば、多くの賛同者が出てきます。そして、事業の広がりと同時に人脈も広がっていくものです。スタートする時から人脈はあるに越したことはありませんが、私はあまり気になりませんでした。
――社長はやはり仕事が好きなのですよね。
「仕事をしよう」とは、あまり思っていません。と言うのも、仕事イコール人生なので、仕事と遊びを分けるというような感覚がないのだと思います。ベンチャー企業の社長にはそうような方が多いのではないでしょうか。仕事そのものが自分の人生の表現であり、コミュニケーションでもある、という考えです。
――創業時には特にたくさんやることがあったと思うのですが、それらを心の底から楽しめていたと言うことでしょうか。
創業時は「楽しむ」というよりは、「生きていくのに必死」でした。確かに当時を振り返ると「考えてみれば面白かったな」ということはありますが、当時は楽しむというよりも必死だったと思います。
――テレビ番組の制作を行ないたい場合、テレビ局に就職される方と御社に就職される方の違いというのはあるのでしょうか。
テレビ局と当社双方に志望されるという方が多いようですね。
テレビ局は、大きい組織ですから「制作だけでやっていこう」と思っていても、志望していない分野への異動があったり、ある時点で管理職になったりしますから、本当に好きな分野だけで勝負しようと思ったら、当社に入社した方が良いかもしれません。
テレビ局に就職すると、当然のことですが自局の番組にしか携われません。
一方、当社の場合は、様々な局の番組に関わることができます。テレビ番組の約45%の制作に当社のスタッフが携わっているのです。
日本の東京キー局は6局ですが、世界全体を見るとテレビ局は12,000局もあります。当社はこの12,000のテレビ局に対して、自分のクリエイティブで勝負できるようなディレクターを育成し続けなければいけません。
しかし、個人が世界中のテレビ局で活躍することはなかなか難しいでしょう。
当社のような会社が、企画とプロデュースを行なうことで、クリエイターの活躍できる場が世界に広がるようになります。
また、テレビで鍛えられたという人の感性は非常に高いのですが、テレビの現場では、若い方の方が活躍できる機会が多いのが現状です。
しかし、テレビでの活躍の場が少なくなったとしても、当社に登録いただければ、テレビで鍛えた感性を活かしてWebでのプロモーションやゲームの企画構成を行なう等、色々な分野に自分の能力を広げることが可能です。テレビの構成ライターをやっていた人なら、本の出版も考えられるでしょう。
テレビ業界も縦割りの部分があり、コマーシャルをやっている人がドラマやバラエティをやったりすることは、ごく稀にはありますが、ほとんど無いに等しい。例えテレビ局に作家として活躍できるほど文章の上手い方がいたとしても、本を出版するまでは組織の様々な壁を越えなければなりません。
それに対して、クリーク・アンド・リバー社は、テレビ局であろうと出版社であろうとWebだろうと、様々な分野で活躍できる場をご提供できます。テレビで視聴率を上げているディレクターが、ある会社のポータルサイトの構成・演出を行なうということができるわけです。
つまり、その人の頭脳が、色々な分野で価値を上げていくことが可能になります。クリエイティブを使う分野とはどんどんと広がっています。例えば、ECサイトは10年前はほとんどありませんでしたが、今では6兆円位にまで広がっています。つまりこれは、クリエイターの方が活躍できる場が6兆円分広がったということです。
我々は色々なクリエイティブ分野に対して、約40,000人のクリエイターの方々が働けるルートとパイプを作っています。ですから、今後も特定の分野に特に注力しようということはなく、どの分野にも力を入れたいと思います。
――若手のクリエイターを育てる活動はなさっていますか。
当社で本社の2階にホール施設を持っており、そこで様々な分野のクリエイターを講師に招き、年間約60講座のセミナーやフォーラムを開催しています。
プロフェッショナルの方々は生涯価値を上げるために、一生勉強を続けなくてはいけません。ところが、プロフェッショナルになる前の基礎的な知識を学ぶ場はあっても、プロフェッショナルになってから更にスキルを伸ばすために学ぶ場所は少ないのが現状です。当社は生涯クリエイターをサポートしていくために、そのような学びの場を提供しています。
――韓国にも子会社がありますが、なぜ韓国に進出されたのですか。また、今後の海外進出の計画についてもお聞かせ下さい。
韓国と日本は、地理的にも近く、昔から文化的・政治的な交流があるため、考え方が結構近いと思っています。ですから、日本と韓国というのは、クリエイティブ面でも近い感覚で物事を捉えることができます。私自身、韓国に行っても、海外に来ていると言う感覚は、あまりありません。
そういう点でまずは韓国に進出をしました。
基本的にはイタリア、イギリス、フランス、アメリカ等、クリエイティブの価値を評価している国は、やはり文化的な水準が高い国だと思っています。そういう国では当社のエージェンシー事業モデルが、成り立っていくと思っていますので将来的には韓国以外にもネットワークを広げていきたいと思います。
――韓国以外の国によってクリエイティブの捉え方というのは違いますか。
違いますね。例えばアニメーションだけをとってみると、インドはアメリカ寄りですし、台湾はヨーロッパとアメリカ寄りです。
しかしながら、インターネットにより、今までと全く違ったもの同士が融合化しているのが、今のこの時代です。ですから国籍を問わず各国のクリエイターが、知恵を出し合いながらひとつの世界を作り上げていきつつあると感じています。
しかし、文化というのはそんなに簡単に変わるものではありませんから、当然ある程度の時間がかかります。それでも、当社が海外で勝負できるようになる土壌は、今まで以上に出来つつあると思っています。
アメリカやヨーロッパにも日本と同じようなフリーランスの方々が大勢いるわけですから、当社のような会社があれば、企業もワールドワイドになっている今、日本の会社がアメリカや中国で同時に商品をプロモーションしたい場合にはとても有効だと思っています。
Webでプロモーションする場合、日本でデザインしたホームページの言語を、中国語や英語に翻訳するだけというケースもありますが、本来であればそれぞれの地域のマーケットに精通したデザイナーが表現することが必要になります。当社は各国のデザイナー等のクリエイターをネットワークして、クライアントの要望に応じてコーディネーションやプロデュースができる段階に早く持っていきたいと思います。
――御社が求められる人材像をお聞かせ下さい。
我々がやっていることは難しいことではありません。その反面、人間力というものが問われます。
本当に欲しい人材は、仕事を自分の人生と同じように考えている人です。仕事そのものに費やす時間は、1年の中で、あるいは1日の中で、あるいは一生の中でも膨大です。その仕事の延長線上に自分がいるのだ、と思える人は、間違いなく成長します。
もうひとつは情熱ですね。クリエイティブという仕事は、こだわりの連続です。例えば「ここにスーパーテロップを入れようか、でもこれでも良いだろう」と、こだわりがなくなった瞬間に、映像やドキュメンタリーが放つ重みの強さというのは、全く違ってきます。
私が助監督の頃のことです。撮影で、ちゃぶ台の向こう側にふすまがあるというセットがありました。その時の監督は「ふすまの向こう側に何があるのか」と言うのですが、立て付けですから何もありません。でも、「ふすまの向こう側には、普通は布団が入っているだろう。それが入っていないじゃないか。布団が入っていないと空気の重さが違うんだ。」とこだわる方でした。
同様に、他者からすると些細に思えることにでもこだわり、情熱を持ち続けていくことができれば、その人間は仕事を通じてどんどんと成長していきます。そのような情熱を持ち続けられる人がいたら、ぜひ欲しいと思います。
雑誌を作る、映画を作る、本を作る、パンフレットを作る等、仕事で制作に携わる以上は締め切りが存在します。私が今まで作ったドキュメンタリーは50本位あると思いますが、自分の中では消化不良だが締め切りのために提出しなければならなかった、というものばかりです。どれひとつとして満足はしていません。
それは満足した瞬間に、多分自分の成長も終わるだろうと思うからです。これは会社を経営する上でも同じで、自分の会社は100%完璧だと思った瞬間に、多分その人の人生も会社も衰退するだろうなと思います。その位、仕事のクオリティを追求する情熱は大事なことだと思います。
もうひとつ大事なのは、その情熱を持続させることです。
そして最後にチャレンジ、挑戦するということを忘れてはいけません。
――満足してはいけないというお話ですが、社長の今現在の満足度を100点満点で言うとどの位だと思われますか。
この会社は、最初に会社を作ったときには映像分野のクリエイターを対象にしていましたが、映像分野で事業を進めると、今度はWeb、雑誌へと新たな分野へ拡大していきます。ですから、ひとつの目標に近づけば近づくほど、次のターゲットが見え、到達すべきポイントが上がって行きます。
そして、日本である程度事業を拡大すると、今度は海外に目が向き、際限がありません。また、事業を拡大していく過程で、法令改正が起きる場合もありますから、そうすると事業展開の局面もまた変わっていくでしょう。
――ある程度やって更に先に行ってしまう到達点というのは、何かを発見したような気持ちなのでしょうか
映画の場合はエンドマークがあるから、どんなに辛かったとしてもそこで終わりというゴールがあります。だからみんなもゴールを目指して頑張ることができます。でもビジネスにはゴールがありません。エンドマークがない状態でずっとモチベーションを上げ続けていかなければなりません。そのためにも、自分達が一生かけても実現できないほどのビジョンは、絶対に必要です。
我々はクリエイターたちの生涯価値の向上ということを目的にしていますが、当然これは日本だけの問題でなく、世界のクリエイターの人達までも対象にしていける会社にしていかなければならないでしょうし、世界中のクリエイターが自国以外でも活躍できる世の中にしたいと思っています。
当社はクリエイターを対象とするだけではなく、ドクターやITエンジニア、弁護士を対象にしたエージェンシー事業を行なっています。更に今後別の新たなプロフェッショナルを対象としたエージェンシー事業を展開したいと考えていますので、ますます限度がありません。恐らく、500社の会社を作ったとしても、満足はしないと思います。


